不思議なことに、どんな年も、ねぶた祭りが終わった翌日から、夏でも涼しいくらいの風が吹きはじめ、季節はまぎれもなく、秋に向かって動き出すのだ。
ところが、歌舞伎町は連日連夜、人が湧いて出て、しかも消えることがない。 「灯が消えることがない。
朝の5時にも、人がうじゃうじゃいる。 これは最高の街だ!心の中ではもう、踊り出したいような気分になりました」そんなわけで、しだいにアルバイトと歌舞伎町に明け暮れる毎日になっていった。
「予備校に行ったのははじめの2週間ぐらいだったかなあ」いまでは時効だと、Nはこういい放ち、「ハハハハハッ」と豪快に笑い飛ばす。 都会の華やかさに、ねぶた祭りに象徴される祭り好きの血が騒いだのだろう。
「上京してから2年間くらい、歌舞伎町、六本木、渋谷といくら遊んでも足りないくらい、遊びまくりました」Nは、ある雑誌のインタビューでこう語っている。 それでもNは、大学には行ったほうがいいという思いは捨てなかった。

翌年、国士舘大学法学部に入学。 合気道部にも入部した。
小田急線の鶴川駅にある大学と、中央線の中野のアパートを電車で1時間以上の道のりを往復する日々がはじまった。 それも合気道部の練習を終えると夜の11時、12時。
これでは、翌朝、早い時間の授業など出られるはずもなく、ふと気がつくと、大学で授業を受けることはほとんどなくなっていた。 結局、国士舘大学は2年で中退することになる。
中退の理由は、実はNの本質を示すものなのだが、一瞬、実に意外に聞こえるものだった。 現在、Nの夫人であるHとの純愛を通すためだったというのである。
NとHは、高校時代に出会っている。 大湊高校時代、生徒会長だったNは、持ち前の積極性でHにアタック、果敢に心情を吐露したのだった。
2人は、高校時代にすでに将来を誓いあう仲になっていた。 高校では、男子生徒と女子生徒がつきあうことに理解を示していたわけではない。

だが、Nは、彼女こそ、生涯をともにする女性だと強く思い、その思いどおり、結婚し、いまも最高の伴侶といってはばからない。 「高校では、男女交際を禁じているところが多いでしょう。
でも、高校時代に生涯の伴侶と出会う機会は少なくないはずなんです。 それを、大人の尺度で、一方的に禁じるのはおかしい」たしかに、Nのいうことには一理ある。
高校生活で芽生えた2人の恋は真剣そのもので、Nは東京で予備校に通うことになると、Hは就職を決めて一緒に上京することになり、2人は夜汽車に乗って東京に向かった。 だが同棲をしたわけではなく、Hはデパートに就職し、寮生活をはじめている。
浪人中もHはよくNを助けた。

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